前回は、昨年度の年金改正の中で、「基礎年金の国庫負担率の引き上げ」、「給付と負担の見直し」、「離婚時の年金分割制度」、「在職老齢年金制度」についてお話しました。今回は、その続きです。
◇ 次世代育成支援の拡充
日本は今、かつて経験したことがない「少子高齢社会」を迎えつつありますが、特に少子化は深刻です。「合計特殊出生率」という言葉をお聞きになったことがありますか?これは、出産可能とされる15歳から49歳の女性の各年齢別出生率を合計したものです。日本のように婚外出生の少ない国では、夫婦2人から2人以上の子供が生まれなければ、人口は減少していきます。正確にはこの合計特殊出生率が2.08ないと人口数は維持できないと言われていますが、日本では1975年に2.00を下回って以来低下を続け、昨年は1.29でした。ということで、何とか子供を生みやすい世の中にしようということが今回の年金改正にも盛り込まれました。
・ 育児休業中の保険料免除制度の拡充
これまでは、子供が1歳になるまでは保険料が免除され、その期間は育児休業前の保険料が引き続き納められているとみなして、将来の年金が減らないようになっていましたが、これが3歳まで延びました。
・ 勤務時間短縮等による標準報酬の低下に対する配慮措置
育児休業しない人に対しては、子供が3歳になるまでは勤務時間を短縮するなどの措置が事業主に義務付けられていますが、これにより減給になった場合、標準報酬や保険料が下がり、その分将来もらえる年金も下がってしまいます。これを、申し出により、勤務時間短縮などの措置前の標準報酬とみなす、というのが今回の改正です。
◇ 遺族厚生年金の見直し
・ 高齢期(65歳以上)の遺族配偶者に対する遺族厚生年金と老齢厚生年金の
併給の見直し
改正前は、遺族厚生年金(死亡した人の老齢厚生年金の3/4)を選択するか、又は遺族厚生年金と自分自身の老齢厚生年金の併給を選択するかでしたが、これでは、自分自身の保険料納付に基づく年金の全部又は一部は受け取れないという問題がありました。改正後は、自分自身の老齢厚生年金は全額支給され、かつ現行水準との差額が遺族厚生年金として支給されることになりました。
・ 若齢期の妻に対する遺族厚生年金の見直し
改正前は、遺族配偶者である女性は子がいる・いないにかかわらず、遺族厚生年金を生涯受給することができましたが、今回の改正において、夫死亡時に30歳未満で子を養育しない妻に対する遺族厚生年金は5年間の有期給付となりました。又、中高齢寡婦加算も、夫死亡時35歳未満から40歳未満に引き上げられました。
◇ 国民年金保険料の徴収強化
未納率が問題となっている国民年金の保険料をいかに徴収するかで、今回は多段階免除制度の導入、納付猶予制度の創設、前納制度利用者に対する割引制度の導入などが盛り込まれました。
◇ 見送られた案件
・ 短時間労働者(パート)に対する厚生年金の適用拡大 ・ 第三号被保険者の扱い
この2つは、今回見送られた案件ですが、5年後の改正においては又議論されることになるでしょう。どちらも「女性と年金」というテーマですが、これからは女性の生き方も一律ではなく、ますます多様化していくことを考えると、夫に従属した年金に甘んじるのではなく、自らが権利を得る年金体系にしていくことが時代の流れではないでしょうか。
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